令和元年7月号 今村力さん(美術監督)

更新日:2019年6月26日

プロフィール

今村 力いまむら つとむさん

第42回日本アカデミー賞最優秀美術賞を『孤狼の血』で受賞。
時代の名監督、名優たちと数々の作品を手掛け、過去にも3度、同優秀賞を受賞。
横浜市出身。
牛沼在住。

映画の世界に命を吹き込む美術監督

 まるで、世界のどこかで実際に起きた一場面を見ているような錯覚さえ覚える映画の世界。
銀幕の向こう側にある世界に命を吹き込むのは、監督?俳優?いいや、彼らだけではない。
その作品が生きる時代と空間を掘り下げ、リアルな世界観を作りだす重要な役目。それが美術監督だ。
所沢にも、その業界で半世紀以上活躍し続けている人がいる。
第42回日本アカデミー賞最優秀美術賞に輝いた今村力さん、その人だ。

 今村さんがこの業界に入ったのは大学卒業後の1965年。
学生時代に舞台美術や照明など、舞台における裏方仕事を学んだことがきっかけとなり、映画会社に入社。その後、数々の映画製作に携わってきた。
「いろんな作品をやりましたよ。ひたすら現場で先輩たちの技術を覚える。
その時に芯から鍛えられたからこそ、今も現役でやっていけているのかな」
と語る今村さんは、76歳となる今も映画美術の第一線を走り続けている。
 今村さんが作る世界のリアリティは、どこから来るのか。
「台本を読み込んで、そこに生きる人々や世界を自分の中に落とし込んでいく。
その中で、『この役だったらこんな部屋で暮らしているな』『このシーンの背景には祭囃子が聞こえているな』というのが、おのずと見えてくるんだよ」。

そう話しながら今村さんが見せてくれた資料の中で、印象的なものがあった。

とある映画のシーンで、背景の一部として置かれていた小物の写真だ。
その小物は物語において重要なアイテムではない。
しかし、その小物ひとつとっても、今村さんの中にはドラマが存在する。
「この小物は、ただ置いてあるだけだと違うんだよ。
部屋の主である主人公がどんな思いで小物を飾っているのかを考えると、置き方も変わってくる」。
台本に書かれていない細部に至るまで、その世界を徹底的に再現する。
その小物についても、何度もスタッフと試行錯誤を重ねたそうだ。
「似て非なる“らしさ”は駄目」。
美術監督としての今村さんの真髄を垣間見た。

 視覚でその世界観を伝える今村さんだが、美術監督として一番大切だと感じることを尋ねると、少し意外な答えが返ってきた。
「何よりも“言葉”が大事。この仕事は絵を描くことも多いが、絵では伝えきれないことを補うのは全て言葉であり、コミュニケーション。だから、言葉を大事にしたい」。
技術の腕以上に言葉を磨く。後進の育成に使命感を抱く今村さんの言葉だからこそ、重みが増す。

 映画は、喜びや悲しみ、時には怒りなど、さまざまな感情を私たちに与えてくれる。
その世界への入口を手掛ける今村さん。
今後も、封切りを控えた作品がいくつもあるそうだ。
銀幕を通して、今村さんが作り出した世界に入り込むのが、ますます楽しみで仕方がない。
(取材:佐々木)

Web版こぼれ話

美術監督としての守備範囲は幅広し!

シリアスな作品に携わることが多いイメージのあった今村さん。
そのような世界観が得意なのかと思いきや、
「女性が住んでいそうなかわいい部屋を作るのが得意だよ」と笑いながら教えてくれるお茶目な一面も。
取材時にお持ちいただいた、今村さんが携わったさまざまな作品の設定資料の中にも、
「え?これ今村さんが描いたんですか?!」とびっくりするような、かわいらしいイラストが多数ありました。
美術監督としての守備範囲の広さを実感しました。

日本アカデミー賞受賞トロフィーの重みはすごかった

取材に際して、快く日本アカデミー賞の受賞トロフィーと額をお持ちくださった今村さん。
テレビの中でしか見たことがなかったトロフィーを持たせていただくと、見た目の大きさに反してズシリと重く、とても驚きました。
今後も今村さんが美術監督を務めた作品が続々と封切りされるので、次の日本アカデミー賞の発表も楽しみですね。
最新作は、令和元年6月28日(金曜)公開の『凪待ち』です。

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